dept24のブログ・生田和良・大阪大学名誉教授

ウイルス感染症の話題について分かりやすくまとめます。

そろそろパンデミックインフルの出番か?

 

新型コロナの次のパンデミックは、インフルエンザが再度表舞台に?

 

人間社会に現れる新型ウイルスとは、これまで知られていなかったウイルスが初めて出現することである。もちろん、まったく新しいウイルスが、突然生まれ出てくるのではなく、人間が知らなかっただけで、どこかでひっそり存在していたものが人間社会に現れることである。野生動物が持っていたウイルスが、何かの拍子で人間社会に顔を出したものである。ちょうど、今回の新型コロナウイルスもコウモリが持っていたウイルスではないかと言われているように。

 

人間は、自身がウイルスや細菌などに曝され、感染し、感染症という病気になると、その原因となった病原体を異物として認識し、その病原体を退治してくれる、生き物が備えている免疫という有難い仕組みをもっている。人間社会にまったく新顔の病原体が現れると、人間は免疫を持っていないため、戦うための武器を持たない丸腰状態で対峙することになる。したがって、次々と感染し、広がりも速い。

 

ところで、2009年にメキシコのブタから出現したインフルエンザウイルスが、瞬く間に世界中に広まっていったことはまだ記憶に新しい。このウイルスは、人間社会で蔓延していた、いわゆる季節性と呼ばれているインフルエンザウイルスとは異なるウイルスである。まさに新顔のインフルエンザウイルスであったために、誰もこのウイルスに対する武器となるような抗体を持ち合わせていなかったことが原因で、容易に人間社会に入り込み、世界中に広がってしまった。このウイルスは、H1N1型にタイプ分けされるインフルエンザウイルスで、それまでは同じH1N1型の「ソ連型」と呼ばれていたインフルエンザウイルスが毎年の季節性インフルエンザウイルスとして蔓延していた。これが、新しい2009年のタイプに置き換わり、今では毎年の季節性インフルエンザの1つが、この新しくメキシコから世界に広がったもの(パンデミックインフルエンザと呼ばれている。日本では「新型インフルエンザ」と呼ばれているが、それまでのソ連型が先にH1N1型として存在していたのでパンデミックインフルエンザと呼ぶのが正しい)である。

このようなパンデミックインフルエンザウイルスは、数年(10~40年)ごとに人間社会に現れている。動物社会から、何らかの理由で人間に感染しやすい進化を遂げた結果と考えられる。

 歴史的にみれば、1918年の「スペインインフルエンザ(H1N1型)」、1957年の「アジアインフルエンザ(H2N2型)」、1968年の「香港インフルエンザ(H3N2型)」、2009年の「豚インフルエンザ(H1N1型)」があげられる。このうち、香港インフルエンザと豚インフルエンザは、現在も現役である。ただ、アジアインフルエンザに対する免疫を持ち合わせている人はそう多くないので、再び人間社会に入り込み、2009年の豚インフルエンザのように多くの人に感染し、広がる可能性を持っている。

それ以外にも、鳥インフルエンザウイルス(H5N1型やH7N9型など)が、人間に感染しやすい進化を遂げれば(現在まで長年にわたり、そのような進化が見られないので、可能性は低いと考えられるが)、こちらも怖いインフルエンザウイルスの出現ということになる。

 

このように、ウイルスはコロナウイルスだけではないので、多方面へ気配りをしながら、あらかじめの対応策を構築しておくことが重要だといえる。

新型コロナまん延状況が収束すると、次はデング熱の持ち込み・持ち帰りが起こるかも

   わが国も、ようやくワクチン接種が本格化しそうな雰囲気になってきた。まだまだ時間はかかりそうであるが、これまでに比べるとスピードを期待できそうな状況になってきている。

 このワクチン接種が進んでくると、欧米にみられるように自由を求める機運が一気に高まりそうである。新型コロナに対する基本的な対策、マスク、小まめな手洗いやアルコール消毒などがおろそかになりがちになると予想できる。

 政府も、経済優先ということで海外からのビジネスマンなど、渡航者の受け入れに積極的になることは必至である。

 ここで、懸念されることは、東南アジアで猛威を振るっているデング熱(重症化するとデング出血熱となり、死に至ることもある)である。タイでは、新型コロナの対策が実施され、ある程度の抑制を維持している状況ではあるが、デング熱患者数は新型コロナ患者のほぼ10倍にも達するとの報道である(2020年8月時点)。シンガポールでも、デング熱患者は過去最悪の状況と報道されている(2020年9月時点)。ただ、今年に入り、東南アジアにおけるデング熱患者数は大幅に減少している。おそらく、デング熱への基本的な対策(感染症によって、対策は異なる)の徹底が、東南アジアの各国で進められたことが挙げられる。

 デング熱は、ネッタイシマカと呼ばれるやぶ蚊の一種によって媒介され、感染が広がっていく。日本にはこの種の蚊はいないが、同じ役割を果たす蚊としてヒトスジシマカ青森県から南の日本各地に生息)がいる。2014年8月、海外渡航歴がないにもかかわらず、東京・代々木公園内で蚊に刺されてデング熱を発症し、その後も次々と新たな患者が現れ、160人にも達した。

 ネッタイシマカは熱帯地域に生息し、早朝や夕暮れ前に活発に活動し、吸血するので、この時間帯に蚊がヒトにデング熱の原因となるデングウイルスを感染させることになる。デングウイルスは、デング熱患者から吸血されると、蚊の体内でも増え、増えたデングウイルスは唾液腺の細胞に移る。このデングウイルスをもっている蚊が、次の人(デングウイルスに感染していない)を刺すときに、唾液中に含まれるデングウイルスを多量に注入するので、効率よく感染させることになる。

 デングウイルスには抗体で区別できる型が4種類(4血清型といわれる)存在している。厚生労働省からも、全世界で年間数千万人の患者が発生し、広い地域で大流行が頻発していることが紹介されている。現在の新型コロナ感染状況の改善が進むと、次に大流行する感染症候補としてデングウイルスが挙げられる。日本では「輸入感染症」としての位置づけで、あらかじめの対策が必要と思われる。

 

新型コロナまん延状況が収束すると、次は麻しん(はしか)のアウトブレイクが起こるかも?

   わが国の新型コロナのまん延状況はなかなか収束するような状況にないが、欧米各国はワクチン接種が飛躍的に進み、今や格段の状況改善が認められるまでになっている。世界的に、このまま新型コロナの状況が改善されると、次にどのような感染症が発生する懸念があるのだろうか?

 新型コロナという新しい感染症が現れ、世界中を恐怖に陥れ、マスクが日常的な習慣になり、またアルコール消毒やこまめな手洗いも習慣になると、インフルエンザやノロなど、毎年悩まされていた感染症が影を潜めてしまっている。勿論、水痘ウイルスなど、そもそも小児期に感染し、その後も終生からだに取り付いているウイルスは、新型コロナ発生後のマスクや消毒・手洗いには影響を受けないどころか、コロナ禍で精神的な疲れからか、逆に患者が増えているようである。

 そこで、ワクチンの接種が進んで新型コロナが収束すると、その後はどのような感染症が姿を現わすのか、気になるところである。これまでも、定期的なアウトブレイクを起こし、世界的にもなかなかこの地球上から排除できない麻しん(はしか)が挙げられる。

 麻しんは、歴史的に最も人類を苦しめてきた、致死率の高い感染症である。近年では、ワクチンが開発され、このワクチンを2回接種することが唯一の予防策になっている。治療薬はない。しかし、問題はこのワクチン接種を2回きっちりできていない人たちが、かなりの割合で存在することである。

 日本の場合は、麻疹を含む混合生ワクチン(MMR)の接種により、異常に高い割合で副反応が起きた時期があり、その後の一定期間ワクチン接種年齢であった世代は、ワクチンの接種ができてない。日本の場合は、2015年に世界保健機関(WHO)西太平洋地域麻しん排除認定委員会より、「日本は麻しんの排除状態にある」との認定を受けたが、その後も麻しん患者が発生している。これは、日本の土着型の麻しんが原因ではなく、海外で感染した人(外国人)が日本に持ち込む、または日本人が海外に出かけ、そこで感染した状態で持ち帰ってくる(これを輸入感染症と呼ぶ)ことが原因といわれている。

 麻しんは、空気感染する数少ない感染症である。持ち込んだ人や持ち帰った人の周辺にワクチン接種をしていない、もしくは1回しか接種していない人がいれば、容易にうつされてしまう。発熱などの症状が現れた人が、最初に受診した医療機関で的確に診断されずに症状が治まらず、次々に病院を回ったために一瞬にして広げてしまったという過去の例もある。また、感染した人が発症前に別の町に移動し、その町に飛び火し、そこでアウトブレイクを起こす場合もある。

 

 世界的には、2019年の麻しんによる死亡者数は20万7500人にも上るという。わが国も、2019年は745例の感染者が報告されている。それ以降は数名程度の感染者で収まっているが、新型コロナの状況が改善され、当時の緊張がゆるむことを狙い撃ちされて麻しんの大流行が起こらないように、気を引き締めてかかる必要がある。新型コロナ禍で、小児の2回の麻しんワクチン(実際には麻しんと風しんの混合(MR)ワクチン)接種率が低下しているようである。麻しんに狙い撃ちされないためにも、定期接種のワクチンは必ず接種しておくことが重要である。

 

ヒトには8種類のヘルペスウイルスがあり、感染すると死ぬまで取り付ついて離れません

   子どものころに感染したウイルスが生涯にわたって、からだのどこかにひっそりと棲みついて離れない。それがヘルペスウイルスです。

 ヒトに感染するヘルペスウイルスは、これまでに8種類が知られています。

  • 単純ヘルペスウイルス1型: 口の周りに時々できる口唇ヘルペスの原因
  • 単純ヘルペスウイルス2型: 1型に似ているが、基本的には性器に取りつく
  • サイトメガロウイルス: 小さい頃に家族から感染することが多い。感染歴がない妊婦が初めてこのウイルスに感染すると、難聴などの障害を持った赤ちゃんが生まれる可能性がある(先天性サイトメガロ感染症
  • エプスタイン・バー(EB)ウイルス: 唾液中にウイルスが存在し、回し飲みやキスでうつる(キス病ともいわれる)
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス: 子どものときに初めて感染し、水痘(みずぼうそう)を発症し、回復後もからだに棲みつく。高齢になって免疫の力が弱くなると活動し始め、帯状疱疹になる。
  • ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6): 子どもの突発性発疹の原因
  • ヒトヘルペスウイルス7型(HHV-7): 6型と同じく突発性発疹に関係
  • ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8): エイズ症状のひとつであるカポジ肉腫の原因

ワクチン開発の歴史的貢献者:ルイ・パスツール(フランス)

    フランスのルイ・パスツールは、エドワード・ジェンナーの行った天然痘の予防法について、ジェンナーが用いた方法に関連性が深いキーワードとして「ウシ」があります。そこで、雌牛を意味するラテン語(Vaca、ワッカ)から「ワクチン」という名前を作り、これが今日までそのまま引き継がれています。

ニワトリコレラ炭疽病などに対するワクチンなどの開発を手がけましたが、その業績の中で最も有名なのは、狂犬病ワクチンの開発です。

ジェンナーの用いた牛痘ウイルスは、自然界に存在していた、人間にとって都合の良い、弱毒性(感染しても恐ろしい病気を引き起こさない)のウイルスでした。ウシが持っていたので、牛痘ウイルスと名前がついていますが、そもそもはネズミの持っているウイルスのようです。ジェンナーは大変ラッキーな人だと言えます。しかし、この時期は、人に感染し、病気を引き起こすことが明らかになった最初のウイルス(黄熱ウイルス)が発見されるよりもずっと以前でした。

一方のパスツールは、病気を引き起こす狂犬病ウイルスを弱毒化する必要がありました。ジェンナーの時代からほぼ100年が経過していた頃でした。

水痘と帯状疱疹は同じウイルスが原因

 

帯状疱疹は、がまんできないほどの強い痛みを伴う病気です。皮膚に肌荒れのような、かぶれのような赤い発疹ができ、そのあとは水膨れが出てきますが、やがてかさぶたになり、最後には赤い斑点となり、2~4週間ほどで治癒します。

80歳までに3人に1人が経験し、まれに数回かかる人もいます。

そもそも帯状疱疹の原因は、子どものころに感染した水痘(みずぼうそう)のウイルスです。この子どものころに感染したウイルスが、高齢になりからだの抵抗力(ウイルスの活動を抑える免疫の力)が下がってくることを見計らって暴れ始めます。その結果、帯状疱疹になってしまいます。

ですので、みずぼうそうと帯状疱疹は同じウイルスが原因となのです。

名前は、水痘・帯状疱疹ウイルス(水痘のvaricellaと帯状疱疹のzosterのウイルスvirusということで)VZVと名付けられています。

予防接種について

   予防接種には、法律に基づいて市区町村が主体となって定期接種と、希望者が各自で受ける任意接種があります。

 

定期接種には、「A類感染症(全額補助がある小児用)と「B類感染症(部分的な補助がある高齢者用)があります。

 

高齢者用には、肺炎球菌(23価、23種類の型が混ざっている)とインフルエンザウイルスに対するワクチンがあります。ほかに、任意接種の帯状疱疹ワクチンがあります。

 

小児用には、定期接種の10種類があります:B型肝炎ロタウイルス、Hib(ヒブ;インフルエンザ菌b型)、肺炎球菌(13価)、四種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオの混合で、DPT-IPVと呼ばれる)、BCG、麻しん(はしか)と風しんの混合されたMR、水痘(みずぼうそう)、日本脳炎、ヒトパピローマ(HPV)。ほかに、任意接種の3種類があります:おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)、インフルエンザ、髄膜炎