dept24のブログ・生田和良・大阪大学名誉教授

ウイルス感染症の話題について分かりやすくまとめます。

次回の第3回かんさい感染症セミナーのご案内です


次回は、2月22日(木曜)13:30~16:00、大阪梅田(大阪駅前第二ビル5階の梅田総合生涯学習センター第二研修室)です。

話題の感染症として、「マダニ媒介感染症」、「食中毒」、「インフルエンザ」についてです。

感染症の専門家が、平易な言葉でわかりやすく、丁寧に説明します。感染症に対する対応が的確になります。

 

皆様、奮ってご参加ください。

 

参加登録は、NPO法人関西BS交流会(BSはbiosafety)の新しくなったホームページ(kansaibsweb.com)から、もしくはe-メール(office@kansaibsweb.com; kansai.biosafety@gmail.com)、もしくは電話(070-2227-8791)からできます。よろしくお願いします。

 

(「かんさい感染症セミナー」は4カ月ごとに、関西のいろいろなところで開催していく予定です)

 

次回のセミナーは大阪梅田で、2024/2/22の13:30~16:00です。

 

世界における麻しん(はしか)流行の現状について

新型コロナ(COVID-19)の大流行もようやく落ち着いた状況になり、人々の動きも活発になっている。特に、観光客やビジネス関係者の海外との行き来は、ほぼコロナ以前に戻る勢いである。この海外との行き来が活発になると、心配なのは輸入感染症である。特に、空気感染する麻しん(はしか)には気を付ける必要がある。

 

麻しん対策として切り札となるのは2回のワクチン接種であるが、このコロナ禍でワクチン接種率が下がっていることが、世界的な、大きな懸念となっている。

 

今回は、今年に入って麻しん大流行が起こっているいくつかの国について紹介したい。厚生労働省検疫所が提供している“海外で健康にお過ごしいただくための情報サイト「FORTH」”(https://www.forth.go.jp/topics/fragment1.html)は、日本人が海外渡航する際に役立つ、それぞれの渡航先の国の感染症情報を提供しているサイトである。この情報は逆に、どのような感染症が海外からの輸入感染症になり得るのかとも考えられる。そこで、2023年1月~8月までの期間に、麻しんの発生・流行について、「FORTH」で取り上げられた国についての記事を抜粋して紹介する。

 

  • 2月20日付の記事:2022年1月から2023年2月1日まで、南スーダン共和国(以下、「南スーダン」という。)の保健当局は、継続して麻しんの発生に対応しており、全国で388例(全体の9%)の検査確定例を含む4,339例の疑い例と46名の死亡例(致死率(CFR):1.06%)を報告している。2022年には、2月23日と12月10日にそれぞれ麻しんの発生が保健当局によって宣言された。2022年3月から11月にかけて、対応的ワクチン接種キャンペーンで合計770,581人の子どもがワクチンを接種した。麻しんの予防接種率は、現在発生している感染を阻止するために期待される95%を下回っているため、今回の流行は公衆衛生に深刻な影響を与える可能性がある。また、最も影響を受ける年齢層が5歳未満であることや、武力紛争、食糧不安、国内避難民が存在し、感染が助長されている国情も要因となっている。
  • 3月20日の記事:2023年1月2日、ネパールのバケ(Banke)群ネパールガンジ(Nepalgunj)準都市で、発熱と発しんの症例が集団発生し、麻しんのアウトブレイクが確認された。確認後、積極的な症例調査により、2022年11月24日に発症した初発症例が特定された。2022年11月24日から2023年3月10日の間に、ネパール西部の7地区とネパール東部の3地区(主にテライ生態系地域)から、関連死1例を含む690例の麻しん患者が報告されている(致死率(CFR):14%)。症例の大部分にあたる591例(86%)は15歳未満の小児の報告であった。麻しんはネパールの風土病であり、毎年報告されているが、今回のアウトブレイクの規模や範囲は、例年に比べて異常に高くなっている。12,000例を超える大規模なアウトブレイクが報告された2004年以降、散発的かつ独立した麻しん症例しか発生していない。ネパールガンジ準都市から他の地区や州へ流行が広がっていること、国境を越えて頻繁に移動を繰り返す集団内で麻しん患者が検出されたこと、影響を受けた地区の集団免疫力が低いことから、麻しんの拡大リスクは国家レベルで高、地域レベルで中と評価されている。感染発生地区では、積極的な症例の検索や症例管理、アウトブレイク対応予防接種(ORI)などの対応策が実施されている。
  • 3月27日付の記事:2022年を通して、南アフリカ共和国(以下、「南アフリカ」とういう。)では散発的に麻しんの症例が報告された。2022年10月8日に終了する疫学週第40週目には、リンポポ(Limpopo)州でアウトブレイクが宣言された。2023年3月16日現在、すべての州から確定症例が報告されており、南アフリカの9州のうち8州が麻しんのアウトブレイクを宣言している。麻しんに関連した死亡は記録されていない。症例の86%は、14歳未満と報告されている。
  • 5月1日付の記事:2022年以降、インドネシア共和国(以下、「インドネシア」という。)は例年に比べて麻しんの疑い例と確定例が増加している。2023年1月1日から4月3日の間に、インドネシアの全38州のうち18州で合計2,161例の麻しん疑い例(検査確定848例、臨床適合(疑い)例1,313例)が報告されており、内訳として主に西ジャワ(West Java)州から796例、中部パプア(Central Papu)州から770例、バンテン(Banten)州から197例となっている。麻しんはインドネシアの風土病であり、毎年報告されている。しかし、2022年と2023年は、2018年以降毎年報告されている症例数(2018年は920例、2019年は639例、2020年は310例、2021年は132例)と比較して、確定症例数が大幅に増加している。
  • 6月6日付けの記事:エチオピア連邦民主共和国(以下「エチオピア」という。)では、麻しんが風土病であり、毎年症例が報告されている。2021年8月12日から2023年5月1日の間に、エチオピア国内で16,814人の麻しん検査確定患者と182人の死者が報告されており、致死率は1%となっている。2021年以降、年間の麻しん確定症例数は、2021年の1,953例から2022年の9,291例(+375%)、2023年は5月1日時点において6,933例と大幅に増加している。したがって、2021年から2022年の間に、確認された麻しん症例は、ほぼ5倍に増加したことになる。
  • 8月31日付けの記事:チリ共和国(以下、「チリ」という。)の首都圏で麻しんの確定症例(麻しんの流行がある国への渡航歴あり)が発生したことをWHOに通知した。この患者は、2020年以降チリで初めて報告された麻しん患者である。

 

厚生労働省が提供している、世界における麻しんの流行状況

 

海外から持ち込まれる麻しんなどの感染症 ―輸入感染症対策の切り札はあるのか?―

新型コロナの収束ムードが日増しに高まり、人々の行き来が活発化している。これは世界的な現象で、当然、日本と海外の間も同じである。

 

日本人旅行者やビジネスマンが海外に行き、現地で流行っている感染症に罹っても、帰国時にまだ症状がでていなければ、成田国際空港関西国際空港の検疫所で止められることなく帰国できる。海外からの旅行者やビジネスマンも同じ状況で入国できる。そして、帰国・入国後数日で症状がでて、医療施設を受診し、そこで初めて、麻しんなどの輸入感染症に罹っていることが判るのである。現在の診断はPCR検査がほとんどであり、結果が本人に届けられるまでに数日を要する。その間、次の病院を受診するなどを繰り返すことが多く、そこでの濃厚接触者を多数発生させるため、PCR検査に追われることにつながっている。

 

2018~2019年の麻しんの大流行も、沖縄観光に訪日した台湾人が多くの日本人にうつしていたことが発覚したが、その時はすでに名古屋など、本島の各地に飛び火したことが次々と判明した。2020年の新型コロナの日本での最初の患者も、横浜在住の中国人(武漢出身)が春節で中国へ帰省し、日本に戻った数日後に症状がでて、医療施設を受診したところ、新型コロナ第1号であった。

 

このように、輸入感染症を水際で止めるための方法を考えるべき時に来ている。新型コロナにみられるように、あまりにも高い検出感度を求めるあまり、PCR検査一辺倒になっているが、時間がかかり(費用も高くつく)、水際の対策としては適さないことは明らかである。現在、麻しんや風しんに対する日本の対策は、2回のワクチン接種をしていない人(これまで接種をしたことがない、もしくは1回しか接種していない人)に、ワクチン接種を勧めることである。しかし、働き盛りの人たちは忙しく、なかなか進んでワクチン接種をする流れになっていないようである。

 

そこで、麻しんなどの輸入感染症には、感染しているかどうかの検査が10~15分と、迅速に診断できるイムノクロマト法の開発が急がれる。世界的にも、まだ開発されていないが、もし麻しんの感染を迅速に診断できるキットが開発されれば、検疫所で感染者を止めることができる。たとえ入国後、もしくは帰国後に症状が現れても、その濃厚接触者をこのキットで検査することで、かなり感染拡大は抑えられると考えられる(図)。

 

検疫所での水際対策として機能するイムノクロマトキット(赤の矢印で検査)の開発が急務

 

風しんも、麻しん(はしか)のように、数年ごとに流行を繰り返している感染症です

麻しんが、世界的流行の兆しを見せている。わが国は、これまで数年ごとに大流行を繰り返しており、これまでの3年半のコロナ禍で感染者はほぼゼロ状態であったが、今年に入りジワリと増え始めている。

 

この麻しんと同様に、風しんもこれまで数年ごとに大流行を繰り返している(図)。MRワクチン(麻しんと風しんに対する生ワクチン)を接種していない人が、麻しんウイルスに感染すると重症化する危険性がある。感染した時の切り札となる薬も開発されておらず、あらかじめの2回のワクチン接種での予防以外に、効果的な方法がない。一方風しんは、「三日ばしか」と呼ばれるように、感染しても軽症に経過することが多い。しかし、風しんウイルスに対する免疫の無い(ワクチン接種歴が無い)妊婦が感染すると、このウイルスが母親から胎児に感染(母子感染)し、先天性風疹症候群と総称される障害(先天性心疾患、難聴、白内障)を伴った赤ちゃんが生まれる可能性がある。妊婦は生ワクチンを接種できない。また、麻しんと同様に効果的な薬も開発されていない。

特に、過去に行政上の問題があり、一定世代の男性が2回の風しんワクチンを接種できていないことが、わが国の大きな課題である。このことから、昭和37年度~昭和53年度生まれの男性に、原則無料で風しんの抗体検査と予防接種が受けられる「クーポン券」が各自治体から送付されている。2019年4月から3年間の予定でスタートしたが、2022年8月で28%と、思ったほどの受診率が得られなかったため、さらに3年間、すなわち2025年3月末まで延長されている。対象人数が1,540万人なので、まだ1,000万人以上もの人が、この感染症に罹りやすく、そして次々とうつしていく可能性があるということで、大きな懸念となっている。

 

特に、この風しんウイルスは不顕性感染と言われる、感染しても症状が出ない場合が多い。したがって、ワクチン接種歴がなく、抗体を持っていない状態でこのウイルスに感染しても、症状が出ないので本人は感染している自覚のないまま、家庭や職場で妊娠している女性ににうつしてしまう可能性がある。

 

これから結婚予定や、子どもを産みたいというカップルは、まず母子手帳で2回の風しんワクチン接種歴が確認できない場合には、必ずワクチン接種されることをお勧めする。

麻しん(はしか)の感染者数がジワリと増えています

新型コロナウイルスの感染者が増えており、「この感染症は普通の感染症ではなく、油断できない。もう第9波に突入だと、2類から5類へ格下げにしたことが原因だ」と、いわゆる専門家は相変わらずこの感染症に執着しておられます。

 

ただ、この感染症は世界的にも既に収束に向かっているという認識で一致している。これまで3年以上にも及ぶコロナ禍で、免疫の低下も世界的に大きく進んでいる。そんな中、子どもの麻しんや風しんのワクチン(MRワクチン)の接種率の低さは世界保健機関(WHO)の大きな懸念材料になっている。

 

過去の麻疹患者数を見ると、2019年まで世界的にも年々増加傾向であった。しかし、新型コロナが出現した2020年から、世界的にほぼゼロに近い患者数になっていた。ところが、2022年から患者が増え始め、2023年になると世界的に大幅に増加している。わが国においても、麻しんの感染についてメディアで騒がれ始めている。

 

麻しんウイルスは空気感染することから、どのウイルス感染症よりも周辺の人にうつしやすい。現在、新型コロナウイルスは、1人の感染者が1~2人に、インフルエンザウイルスは1~3人にうつす。しかし、麻しんウイルスは12~18人にうつすことから、大幅にうつしやすいウイルスであることが分かる。このウイルスに効果的な抗ウイルス薬は開発されておらず、2回のワクチン接種でのみ感染防御効果が認められている。言い換えれば、この方法しかないのが現状である。わが国には、30~40歳代の人たちの中に、麻しんワクチンを1回も接種していない、もしくは1回しか接種していない人が存在する。この人たちの間で感染が拡大することを数年ごとに繰り返している。

 

国立感染症研究所からの情報では、2023年6月28日現在、19名の患者が確認されている。これらの患者のうち11名は2回のワクチン接種ができていない人たちである(5名はワクチン接種歴が不明)。3名は2回のワクチン接種歴があったが、免疫低下が進んでいたのか、感染した。しかし、ワクチン非接種者に比べると症状は軽く、修飾麻しんと呼ばれる状態であった。これらの多くは海外からの輸入感染症と考えられており、これまではインドネシア、タイ、インド、モザンビーク由来であることが示されている。

 

過去の感染者数(図)をみると、じわじわと増え始めると数ケ月を経てドカーンと大幅な増え方をする。麻しんウイルスは、今の変異した新型コロナウイルスに比べ物にならないほど、重症化する可能性が高い。ワクチン接種歴について母子手帳で確認し、もし2回の接種が確認できない場合には、早めにワクチンを接種することで自分自身と周囲の人を守ることができるのです。

 

次回(8月26日(土曜))の感染症セミナーの案内です。

「かんさい感染症セミナー」は4カ月ごとに、関西のいろいろなところで開催していく予定です。

 

次回は、8月26日(土曜)13:00~15:00、東大阪市の布施駅前プラザの予定です。

話題の感染症として、「アニサキス」、「麻しん(はしか)」、そして気になる「空間の病原体に対する安全対策」についてです。

 

皆様、奮ってご参加ください。

 

 

感染症のセミナー開催の報告です

関西BS(バイオセイフティ―)交流会とBMSA(バイオメディカルサイエンス研究会)が共同で、話題の感染症について、正しく理解し、どうすれば予防できるのか、もし感染してしまったらどうすればいいのか、などについて、できるだけわかりやすく解説する一般の方を対象としたセミナーを開催しました。

 

感染症は「新型コロナ」だけではありません。

 

次々といつこの地球上に顔を出そうかと、したたかに待ち構えている、コロナ後の感染症が列をなしています。今のうちに正しい知識を身につけ、正しい対処法を実行しましょう。

 

第1回かんさい感染セミナー:2023年4月1日(大阪市難波の大阪公立大学I-siteなんばで開催されました。多くの方が参加してくださいました。

 

 

その時の様子をユーチューブにまとめました。いつでも学習に役立てることができるように、次にそのリンク先を貼っておきます。

 

講演1:掛屋先生 https://youtu.be/vCWvdDsDcFc

講演2:浅田先生 https://youtu.be/Ywe3TmuWcMM

講演3:中屋先生 https://youtu.be/FdIELoraXFE

講演4:改田先生 https://youtu.be/CgjqYsGIQiQ