dept24のブログ・生田和良・大阪大学名誉教授

ウイルス感染症の話題について分かりやすくまとめます。

世界における麻しん(はしか)流行の現状について

新型コロナ(COVID-19)の大流行もようやく落ち着いた状況になり、人々の動きも活発になっている。特に、観光客やビジネス関係者の海外との行き来は、ほぼコロナ以前に戻る勢いである。この海外との行き来が活発になると、心配なのは輸入感染症である。特に、空気感染する麻しん(はしか)には気を付ける必要がある。

 

麻しん対策として切り札となるのは2回のワクチン接種であるが、このコロナ禍でワクチン接種率が下がっていることが、世界的な、大きな懸念となっている。

 

今回は、今年に入って麻しん大流行が起こっているいくつかの国について紹介したい。厚生労働省検疫所が提供している“海外で健康にお過ごしいただくための情報サイト「FORTH」”(https://www.forth.go.jp/topics/fragment1.html)は、日本人が海外渡航する際に役立つ、それぞれの渡航先の国の感染症情報を提供しているサイトである。この情報は逆に、どのような感染症が海外からの輸入感染症になり得るのかとも考えられる。そこで、2023年1月~8月までの期間に、麻しんの発生・流行について、「FORTH」で取り上げられた国についての記事を抜粋して紹介する。

 

  • 2月20日付の記事:2022年1月から2023年2月1日まで、南スーダン共和国(以下、「南スーダン」という。)の保健当局は、継続して麻しんの発生に対応しており、全国で388例(全体の9%)の検査確定例を含む4,339例の疑い例と46名の死亡例(致死率(CFR):1.06%)を報告している。2022年には、2月23日と12月10日にそれぞれ麻しんの発生が保健当局によって宣言された。2022年3月から11月にかけて、対応的ワクチン接種キャンペーンで合計770,581人の子どもがワクチンを接種した。麻しんの予防接種率は、現在発生している感染を阻止するために期待される95%を下回っているため、今回の流行は公衆衛生に深刻な影響を与える可能性がある。また、最も影響を受ける年齢層が5歳未満であることや、武力紛争、食糧不安、国内避難民が存在し、感染が助長されている国情も要因となっている。
  • 3月20日の記事:2023年1月2日、ネパールのバケ(Banke)群ネパールガンジ(Nepalgunj)準都市で、発熱と発しんの症例が集団発生し、麻しんのアウトブレイクが確認された。確認後、積極的な症例調査により、2022年11月24日に発症した初発症例が特定された。2022年11月24日から2023年3月10日の間に、ネパール西部の7地区とネパール東部の3地区(主にテライ生態系地域)から、関連死1例を含む690例の麻しん患者が報告されている(致死率(CFR):14%)。症例の大部分にあたる591例(86%)は15歳未満の小児の報告であった。麻しんはネパールの風土病であり、毎年報告されているが、今回のアウトブレイクの規模や範囲は、例年に比べて異常に高くなっている。12,000例を超える大規模なアウトブレイクが報告された2004年以降、散発的かつ独立した麻しん症例しか発生していない。ネパールガンジ準都市から他の地区や州へ流行が広がっていること、国境を越えて頻繁に移動を繰り返す集団内で麻しん患者が検出されたこと、影響を受けた地区の集団免疫力が低いことから、麻しんの拡大リスクは国家レベルで高、地域レベルで中と評価されている。感染発生地区では、積極的な症例の検索や症例管理、アウトブレイク対応予防接種(ORI)などの対応策が実施されている。
  • 3月27日付の記事:2022年を通して、南アフリカ共和国(以下、「南アフリカ」とういう。)では散発的に麻しんの症例が報告された。2022年10月8日に終了する疫学週第40週目には、リンポポ(Limpopo)州でアウトブレイクが宣言された。2023年3月16日現在、すべての州から確定症例が報告されており、南アフリカの9州のうち8州が麻しんのアウトブレイクを宣言している。麻しんに関連した死亡は記録されていない。症例の86%は、14歳未満と報告されている。
  • 5月1日付の記事:2022年以降、インドネシア共和国(以下、「インドネシア」という。)は例年に比べて麻しんの疑い例と確定例が増加している。2023年1月1日から4月3日の間に、インドネシアの全38州のうち18州で合計2,161例の麻しん疑い例(検査確定848例、臨床適合(疑い)例1,313例)が報告されており、内訳として主に西ジャワ(West Java)州から796例、中部パプア(Central Papu)州から770例、バンテン(Banten)州から197例となっている。麻しんはインドネシアの風土病であり、毎年報告されている。しかし、2022年と2023年は、2018年以降毎年報告されている症例数(2018年は920例、2019年は639例、2020年は310例、2021年は132例)と比較して、確定症例数が大幅に増加している。
  • 6月6日付けの記事:エチオピア連邦民主共和国(以下「エチオピア」という。)では、麻しんが風土病であり、毎年症例が報告されている。2021年8月12日から2023年5月1日の間に、エチオピア国内で16,814人の麻しん検査確定患者と182人の死者が報告されており、致死率は1%となっている。2021年以降、年間の麻しん確定症例数は、2021年の1,953例から2022年の9,291例(+375%)、2023年は5月1日時点において6,933例と大幅に増加している。したがって、2021年から2022年の間に、確認された麻しん症例は、ほぼ5倍に増加したことになる。
  • 8月31日付けの記事:チリ共和国(以下、「チリ」という。)の首都圏で麻しんの確定症例(麻しんの流行がある国への渡航歴あり)が発生したことをWHOに通知した。この患者は、2020年以降チリで初めて報告された麻しん患者である。

 

厚生労働省が提供している、世界における麻しんの流行状況